とりあえず、日本のひとですけど

 夕飯を作っていたとき、インターフォンが鳴った。玄関を開けると20代後半ぐらいの男がいた。どうやら管理会社のひとっぽい。

 「すみません!こんな時間に突然!…もしかして、外国の方ですか?」

 またか。

 わたしは日本人らしくないらしい。新大久保を歩くと韓国語で話しかけられたし、湯布院のお土産屋さんに入ったら英語で案内された。不快ではない。ただ、外国語で話しかけられる理由が気になっていた。

 仕事先で小学生に「お兄さん、韓国人?」と聴かれた。「どうしてそう思ったの?」と訊いてみたら「顔が韓国人っぽいし、話し方が韓国語っぽいから」と答えた。

 「少年!よくぞ見抜いた!わたしは日本国籍在日コリアン3世で、小学4年生まで韓国籍だったんだ。お父さん方のおばあちゃんは済州島の虐殺事件で逃げてきた。お母さん方のおばあちゃんはクリスチャンだったから朝鮮戦争中、朝鮮人民軍に追いかけまわされた。うちの家族はかなり複雑で、お母さん方の『ほんとう』のおばあちゃんは福島県出身らしいんだ。会ったことないんだけどね。

 つまり、わたしは日本人かもしれないし、日本人じゃないかもしれない」

なんていおうと思ったけど止めた。

 なんとなく日本人っぽくないひとがいたと憶えてくれればそれでいい。そして、いつか、日本人なんていなくて、ひとがいるだけと分かってくれれば。

 小学生との他愛のないおしゃべりを思い出しながら管理会社っぽいお兄さんに答えた。

 「とりあえず、日本のひとですけど」