ホルモンは放るもんではない

 先日、ネットサーフィンをしていたところ、ホルモンを焼いたことが原因で火事なった店があったことを知った。どうやら客が大量のホルモンを焼いてしまったことによって、炎が油のついたダクトに燃え移ってしまったらしい。
 ホルモンっていうのは迂闊なことをTwitterで言って、炎上してしまうぐらいに燃えるものなのだが、このことを知らない人が居たようだ。
 ホルモンの焼き方を学ぶというのは成人の通過儀礼であると、どっかの文化人類学の教科書に書いてあった(はず・・・・・。)。
あのブルーハーツだって、歌っている。

 

誰かが網を変えてた気がする
そんなことはもうどうでも良いのだ
ホルモンは熱い金網の上
アイスクリームみたいに溶けてった


確か曲名は『1001gのホルモン』というのだが、私の記憶では宮崎あおいがCMで歌っていた。モランボンのCMソングよりもイカしていたと思う。(肉なのに。)
あの映画界の巨匠、深作欣二もこの歌が好きだとどっかで聴いたことがある。
「それって、『1001のバイオリン』のこと?」と思った貴方。
ネットにこそ真実があるのです!(絶叫)
 さて、この世の中には良いホルモンと悪いホルモンがある。
「焼いて食べるのがレバーだ!店員が出す前に『生でも食べられるレバーです。』というレバーは良いレバーだ!」というハートマン軍曹の言葉はソクラテスが真理としている。
あれ、プラトンだったっけ?
「ソッソソクラテスか、プラトンか~♪」って野坂昭如が歌ってたから、多分、どっちかが言っていたことに間違いない。
 ちなみに悪いホルモンを出されるとこんな感じになる。

 

智恵子は埼玉にホルモンがないといふ。
ほんとのホルモンが食べたいといふ。
私は驚いてホルモンを見る。
皿の上にあるのは、
切っても切れない
むかしなじみのきれいなホルモンだ。
まっしろなテッチャンの輝きは
市場直送の新鮮さのあかしだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
東上野の東京苑に
毎日出ているホルモンが
智恵子の本当のホルモンだといふ。
あどけないホルモンの話である。

 

 以前、某所でミノを食べた。
全く噛み切れないのだ。
そういうミノに出会うと不思議なもので、何故か、頭の中で愛国歌が流れ、「祖国のために、民族のためにこのミノを許してはいけない!」とアジテーションしながらデモ行進をしている私が見える。
どっかの偉い人が言った「スリーパーセル」ってこういうことか。だったら、最初から焼肉にうるさい人たちで良いじゃないか!
 以前からホルモンの語源は「放るもん」であると言われていた。私もこの説を信じていたが、どうやらそうじゃないらしい。食肉加工工場に勤めているおじさんに話を聴いてみたところ、「内臓の部分は石鹸になるから捨てるはずがない。」と言っていた。ちなみに大正時代に流行した滋養強壮の効能がある料理を「ホルモン料理」と言っていたらしく、それが語源なのではないかとも言われている。
 じゃあ、夜中、食肉工場の敷地の中で埋められた内臓肉を掘り出して、それを洗って食べたというエピソードは何だったのか。謎は深まるばかりだ。
 そこで私はホルモンの謎を調べるために韓国中央会館の中にある在日韓人歴史資料館に行ってきた。ところが日曜日は休みだったらしく、残念ながらそのまま帰ることにした。
中央会館の近辺はいつも静かなのだが、今日はなんだか騒がしかった。どうやらヘイトデモが中央会館前で行われていたようで、「不法侵入者!」「韓国に帰れ!」という声が空に響き渡っていた。
 あの土地を買い、建物を建てるためにどれだけの人がホルモンを売り、金網を洗ったのだろうか。時には理不尽なこともあっただろう。だが、そんな時にもあのホルモンの味と温かさが何とか支えてくれた。
ホルモンは放るもんではない。
こうやって生きている私たちも放るもんではない。