Tシャツを脱がせたのは誰だろう

 私が在籍していた高校はとても校則が厳しかった。頭髪検査はもちろんのこと、爪の長さや、男子は腰パン、女子はスカートを短くしていないかを視られていた。

 卒業した今から考えれば、なぜ、あんなに生徒を拘束していたのかも分からない。別にグれるような連中は居なかったし、それぞれの個人にモラルがそれなりにあったと思う。「反抗したい」と思っているが、文句を言いながらも渋々、そんな変なルールを受け容れていた。

 学校の校則は今、考えてみれば奇妙なものが多い。例えば、「髪の毛を染めるな」とか、「異性交際禁止」とか、数えていけばキリがない。必要に迫られて髪の毛を染めなきゃいけない人だって居るし、陰ではコソコソお付き合いしていることだってある。なんで、高校生だけがそんなことをしてはいけないのか・・・・・・。

うーん。卒業してから考えると、とても不条理に感じる。

 今から考えれば、「高校生の癖にお洒落はするな。」もしくは「高校生の癖に色づくな。」ということか。そんな環境で育っていると妙に主張している自分と同じ年の連中を観て、「うわぁ・・・・・。中二病だ。」と言って、馬鹿にしていていた。

 私にとって、とても恥ずかしい過去だ。

 今日は参議院に行ってきた。小学校の社会科見学以来だったが、大人になってから行ってみるとまた違った感覚で観ることが出来る。特に、ここで寝てる奴は許せんよなぁとか(笑)そりゃあ、私たちの一票で代表を決めているんですもんね。

 そんな大人の社会科見学の当日である今日はとても暑かった。5月下旬であるにも関わらず、真夏みたいに暑い。こんな暑い時、私は大好きなTシャツとジーパンで過ごすことにしている。

 私はTシャツを集めるのが大好きだ。どんなTシャツを持っているかと言えば漫画「ワンピース」やディズニーのTシャツのようなキャラTや、バンドTシャツもあるし、ちょっと主張のあるTシャツまで持っている。これで夏は大体、乗り切れてしまう。

 今回の大人の社会科見学では特別、何も考えずにビートルズのTシャツを着て、替えのTシャツをバックの中に入れていた。こんな天気の時は汗をかいてしまい、着ているTシャツがびしょびしょになってしまうからだ。

 今日も結局、国会議事堂前駅のトイレで黒いTシャツに着替えた。そして、トイレの鏡の前に立った途端にふと気づいた。なんと、そのTシャツの胸にはオレンジ色で「NO WAR!」と書いてあるではないか。でも、私は大丈夫だろうと思って、参議院に向かった。

しかし、参議院の前にまで行ったときに、職員さんに止められてしまったのだ!

その職員の人曰く

「主張がある服装での入場はお断りしています。」

とのこと。

 一気に高校時代に戻ったような気がして、「懐かしいなぁ、この感じ。」と思い、「NO WAR!」のTシャツから、再びビートルズのTシャツに着替えた。それで無事にOKを貰い、国民の代表機関である国会に入ることができたのだった。

まぁ、ビートルズも愛と平和を歌ったんだから充分、主張はあるんだけどね(笑)

   こんな出来事があっては、建物のことなんか頭に入らない。ひたすら、職員さんにとって、「主張がある」っていうのは一体何だろうと考えていた。

 日本の学校に通っていると嫌でも社会科の時間に日本国憲法の三大原則を学ぶ。

国民主権」、「平和主義」、「基本的人権の尊重」。

この3つの原則で私たちの自由な生活が保障されていると言っても過言ではない。

 日本国憲法の三大原則の中で特に特徴的なのは「平和主義」の条項、つまり、憲法9条だろう。ここで改めて、憲法9条とはどんな条項なのかということを確認してみるとこんなことが書いてある。

第二章 戦争の放棄

第9条第1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 

 おいおい!これってつまりは「NO WAR!」じゃないか!

私のTシャツは全くもって当たり前のことを語っていたのだ。

 憲法で規定されている原則を書いたTシャツを着ていただけで、憲法で「国民の代表機関」であり、「国権の最高機関」に入れないなら、どんなに中立であったとしても、国会は誰の主張も受け容れてくれないのだろう。

 念の為に言っておくが、私を止めた職員さんに何か思っているということではない。むしろ、その職員さんも職務を遂行するために、上司からの命令でやっていただけだ。土日で、しかも、こんな暑い中、私みたいな面倒臭い人間を注意するのだから本当に「ご苦労様」と心の底から言いたくなる。

 そんな職員さんよりも、憲法に書かれた当たり前のことを「主張」だと言ってしまお偉いさんの方が遙かに問題だ。

 こんなお偉いさんたちにとっての「主張」っていうのは何だろう?

まさか高校の校則のように「国民の癖にモノを言うな!」とでも言いたいのだろうか?

 先日、「共謀罪」を定めた刑法改正案が衆議院の委員会を通過して、今、衆議院の本会議で審議に入ろうとしている。様々なところで「共謀罪」の怖さを伝えている人たちが多い。しかし、もしかしたら、共謀罪があるような日常にもう入っているのかもしれないと思うと参議院の議場をただ見学するだけではいけないと感じるのだった。