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独裁者の血から見えるもの

   金正日氏の長男である金正男氏が暗殺された。この暗殺は異母弟である金正恩朝鮮労働党委員長が命じたのではないかと言われている。このショッキングなニュースをパソコンの前の私たちはいつの間にか、国号で「民主主義」と名乗りながら前近代的な政治を行っている北朝鮮のお家騒動として観ている。韓国国内でもかつて李氏朝鮮時代初期に王位継承争いとして行われた『王子の乱』を想起させながら報じている。日本も韓国も北朝鮮の報道となると前近代的な国家の動乱として観てしまうようだ。 

 朝鮮日報のとある記事でこのショッキングな事件をとある視点から語っていく記事が掲載されていた。それは「血統」という視点だ。その記事によれば北朝鮮では「二等市民」とされている在日朝鮮人の帰国者が母親である金正恩氏が長男の金正男氏に対して劣等感を抱いていたという。確かに今でも金正恩氏は自分の母親については詳しく明かしておらず、さらに金正恩氏は「白頭の血統」を掲げて政権の正統性を主張している。

 「在日」が祖国に足を踏み入れるとき、様々なことを要求される。韓国語の上達が代表的だが、場合によっては同じ民族であることを理由としたパートナーとの結婚まで、韓国人ないしは朝鮮人としての血の濃さを求められる。また、韓国の中には「在日」の蔑称として「パンチョッパリ」といった言葉も存在する。その言葉の意味とは「半日本人」という意味だ。

   だが、日本の地に帰ったしても終戦から72年経った今なお、植民地の人間として扱われ、帰化する手段以外で市民権を手に入れることが極めて困難だ。そして、巷に出ればありもしない単一民族思想を持った人々によるヘイトスピーチに身を晒される。

   この現実を見た瞬間、自らを民族共同体の中に身を置く道か、それとも拒絶された祖国を捨てて、日本の市民権を得るために帰化し、祖国の実態を自ら「明かしていく」日本の名誉市民として生きていく道を選択することになる。

 帝国の落し子である「在日」はこの3つの国家の中で常に二級市民として扱われ、その存在は極めて政治的なものとして利用されてきた。時に民族としての不完璧な面を出すことによって「このようなパンチョッパリ/韓国人/朝鮮人になってはいけない」とし、また、共同体を代表する存在としての面を出すことによって「このような韓国人/朝鮮人/日本人になるべきだ」という日本・韓国・北朝鮮のディスプレーとしての利用だ。そして、この行為は全て血統主義の名の下に行われている。

    血統主義前近代的に見えて、実は極めて近代的なものだ。ドイツで「国民」を創生する過程で生まれた血統主義は近代化を通して日本に入り、さらに植民地を通じて韓国と北朝鮮に入ってきた。国民を定義するだけの意味でしかなかった血統主義を日・韓・朝の人々は頑なに信仰している。その信仰のせいか、日本も韓国も北朝鮮でも不思議なことに、血統によって政治的影響力が決まってしまう。仮に日本と韓国と北朝鮮を分けるものと言えば、お金があるのか?という対立軸と党に対しての忠誠を誓うか?ということかもしれない。

 「二級市民」であるとされている「在日」を見せることによって、日本も韓国も北朝鮮もあるべき国民を創り出している。そして、皮肉なことにそんな「在日」こそがモデル・マイノリティーとして機能して、こういった事実は一切、語られないままになっている。

   金正恩氏の行為そのものが仮にそういった共同体への帰属意識を用いて、自らの正統性を示す行為だったとしたら・・・・・・・。彼はどのような気持ちで北朝鮮のリーダーとして君臨しているのだろうか?

   私は金正恩氏が行った行為を正統化するわけではない。むしろ、この事件の中で隠されている問題とは一体何だろうと考えてみると日本と韓国と北朝鮮の中で共通している共同体の問題が浮かび上がってくる。

   この隠されている問題は一体、何を語りかけるのだろう。